渡辺恒雄の「論座」での発言集(後)
昨日のid:dslender:20060114#p2に引き続き、「論座」2月号の渡辺恒雄氏と朝日新聞・若宮論説主幹との対談記事から。今日は、防衛観や憲法観などに関わる部分を引用します。若宮氏と意見が異なる部分もあるので、関連する若宮氏の発言も同時に載せます。
若宮：9条の果たしてきた役割は重要だと思います。9条は日本が歴史に対する反省から再スタートしたという一つの大きな証です。特にアジア諸国に対するメッセージをこめている。そういうことを考えると、条文から自衛隊が読めないじゃないかという理由だけで簡単に改正するということにはならないものがある。
また、いま自衛隊がせっかく定着してきているのに、なぜわざわざ自衛軍というような名前にするのか。あえて軍と呼ばないところに、ある種の歯止めというか、心の持ちようというものがあります。そう考えたときに、憲法改正の旗を振るのがいいのかどうか、我々はやはり慎重に考えるべきだと思っています。渡辺：ぼくは、とにかくうそをついちゃあいかんと考えている。吉田茂首相は、自衛隊を「戦力なき軍隊」と言っていたでしょう。自衛隊にどうして戦力がないといえるのか。いまや世界でもトップクラスの軍事費を使っている、立派な軍隊ですよ。外国人はみんな、自衛隊を軍隊だと思っているんです。
軍は軍なんだから、「隊」でごまかしてはいけない。自衛隊といったら平和で、自衛軍と言ったら侵略的になる。そんなばかな話はないでしょう。また、世界中に軍を持たない国家はないんです。普通の国なら、みんな軍をもっている。だから僕は、自衛のための軍隊を憲法上はっきりさせるべきだと思います。
ナベツネ氏の「うそをついちゃあいかん」「自衛のための軍隊を憲法上はっきりさせるべきだ」というのには同意。実際、自衛隊が海外で支援活動をする際、戦力であることをアピールする*1方が安全であるケースもあり得ます*2。とは言え、この件に関しては異論を唱える人が多いこともまだまだ現実。世論の動向次第では、呼称については妥協するのも手だと思います。いざと言うときに何もできない自衛隊であるのはマズイと思いますが。
渡辺：僕は、サダム・フセインは東条より悪質だと思っているからね。イラクに対して先制攻撃を仕掛けるのは当然のことだ。サダム・フセインを滅ぼしたことはよかったと思っている。
若宮：そこは大いに異論があります。
世間には異論が多いことは承知で、私も渡辺氏に同意。イラク国民の長期的な利益から考えても、非フセイン政権の方がずっと良いと思います。*3
渡辺：日の丸は単純明快で、コンパス一つあれば真ん丸を描ける。明治以前からあるんだし、まあ、国旗としてはいい。しかし、国歌である君が代は、文章が古臭いし、曲が悪い。あれは、明治時代の雅楽でしょう。国民を躍らせるような曲ではない。
これは半分趣味の問題ですが、同意。私も「君が代」は好きになれません*4。ただ、現実には国歌変更や国民歌制定が多数世論になることもなさそうですが。
最後に、対談記事のラスト付近を長めに引用します。
渡辺：いや、それほもう、言論の自由とか言論の独立を脅かすような権力が出てきたら、読売新聞と朝日新聞はもう、死ぬつもりで結束して闘わなきゃいけない。戦時中にそうしていれば、あそこまでひどくならなかったと思うんだよね。
若宮：いや、本当にそうですね。
渡辺：ところが、当時の新聞は争うようにして軍国主義に走っちゃった。本当にけしからんことで、僕はそれを恥じるね。
若宮：最近、一つの言論に対して「おまえたちは非国民だ」というような感じで叩くメディアがあるのは嘆かわしいことです。まして、例えば朝日が社説で中国や韓国の言い分を紹介しただけで「どこの国の新聞なのか」というような論評をするような社があるんですよね。ジャーナリズムはナショナリズムの道具じゃないんですよ。これでは論争にならない。
国益というのは、やっぱり広い目で見て考えるべきことです。当然、外国の立場も考えると言う視点は欠かせません。それは歴史から学んだ教訓だと思うんです。
ナベツネ氏は戦時中の読売新聞のあり方についてもちゃんと恥じているではありませんか*5。素晴らしいことです。同時に、新聞の読者である我々の側も、戦時中を反省し、常に健全な批判精神を持つことを忘れてはならないでしょう。
以上、2日間に亘って渡辺恒雄氏の発言を中心に紹介してきました。今の気分を一言で表すと「ナベツネ萌え」ですよ。
*1:「戦力である」ことと「戦争をする」ことは勿論別。戦争はしてはいけません
*2:id:dslender:20060105#p1
*3:ただし、戦争での非戦闘員の死者を数多く出してしまったことは極めて残念ですが
*4:本筋には関係ありませんが、最近知ったインド国歌「Jana gana mana」はお気に入り
*5:個人的には、マスメディアの戦争責任は一部政治家などに比べれば微々たるものだと思っていますが
