mumurブログによる根拠薄弱な批判の件

この年末年始にネット右翼界で話題騒然だったブログ記事といえば、有名なネット右翼ブログ「mumurブログ」の2つのエントリでしょう。
毎日新聞と朝日新聞が同じ内容の靖国参拝批判社説を掲載する(12月28日)
この日、毎日と朝日が類似内容の靖国批判を社説に載せました。詳しくはリンク先をご覧頂くとして、mumur氏は次のように結んでいます。

靖国関連の社説は今年何回目か分かりませんが、ちょっと今回の社説は面白い。

・参拝支持はもはや産経新聞だけ
・そもそも国立追悼施設を言い出したのは小泉首相

両方とも、これまでの社説では見られなかった主張です。
それが突如同じ日に、同じ靖国参拝批判の社説で、論点がほとんど同じ。

mumurは陰謀論は好きじゃないですが、「これはなんかあるな」と思わせます。
いや、「なんかいるな」というか。

この2つの論点は、靖国批判を志す者ならば当然注目しているはずのもの。それがたまたま同日に出てきたというだけで“陰謀”を連想するのは私には信じられません。とは言え、このときのmumur氏の主張には特にモンダイないと思います。「なんかあるな」というだけで、何も断定してはいないからです。


さて、このエントリに、どこかの新聞社の記者と思われる人からのコメントが書き込まれました。

人づてにこのブログに来ましたが面白いですね。
記者の間では読売、朝日、毎日、中日、北海道各紙の論説トップと中国の駐日大使の定期懇談会が毎月開催されていることは有名です。
今月は26日水曜日がその日でした。
朝日と毎日が日時とフレーズのブッキングをやってしまい、論説室は今日一日大騒ぎでした。
Posted by 記者魂 at December 28, 2005 17:18

これを受け、mumur氏は次のようなエントリを追加投稿します。
毎日と朝日が中国共産党の意向を受けた瓜二つの社説を書いた件で、論説室が大騒ぎだった模様 (12月28日)
上記の記者魂氏のコメントを引用した後、mumur氏は次のように断定します(太字は引用者による)。

つまり、毎日の社説子も朝日の社説子も自分の考えで靖国反対を唱えているわけではなく中共様のご意向を受けた宣伝屋であると。
駐日大使の説法をありがたく拝聴し、一字一句メモメモしてると。
それが本日の社説でバレバレになっちゃったと。

mumur氏、今度は断定してしまっています。記者魂氏のコメントから何故このように断定できるのか、私には分かりません。物凄い飛躍を感じます。


記者魂氏の発言自体は真実だと仮定しましょう*1。だからと言って、この日の懇談会で駐日大使が各紙論説記者に靖国批判要望をしたという確証は皆無です。仮に要望があったと仮定しても、駐日大使から「全国紙で靖国批判をするのは産経だけ」という話があったかどうか、全く定かではありません*2


百歩譲って、駐日大使からそのような話があったと仮定しても、

毎日の社説子も朝日の社説子も自分の考えで靖国反対を唱えているわけではなく

とは断定できないでしょう。両紙記者の見解と駐日大使の意向がたまたま一致しただけであり、両紙とも自分の考えで靖国を批判している可能性の方が高いと思いますよ。何故なら、居合わせた読売をはじめとする他紙は「産経だけ」論法を用いていないからです*3。私自身、中韓うんぬんとは無関係に靖国に(正確には靖国歴史観に)嫌悪感を抱いています*4


なお、mumurブログのエントリは、その後、嫌中思想を持つブロガーによって各所で引用されました。その中にはmumur氏のようには断定しないフェアな姿勢のブログも数多くある一方、完全に真に受けて確定事実であるかのように書いているブログも散見します*5中共や朝日を蛇蝎のごとく嫌う連中にとって、事実である方が嬉しいという気持ちは分かります。しかし、「自分の意見で記事を書いていない」というのは、メディア人に対する最大級の批判。このような批判を書くからには、もう少し確かな根拠を明示してからにすべきです。


今回の件に限らず、客観的正当性薄弱な根拠で相手の印象を貶めることを目的とする印象批判は、2chや一部のブログで時々見かけます*6。論調の左右を問わず、私はその種の批判を一切信用しません。

*1:私も真実だと思います

*2:エントリのコメント欄にも、ソースが無いことを指摘している方が何人かいらっしゃいます

*3:ちなみに、私も「多くの新聞社がそう書いているから」という論法での靖国批判には説得力を感じません。これについてはid:dslender:20060107に書きました。

*4:ありえない仮定ですが、もしも現在の中韓政府が首相の靖国参拝に文句を言うのを止めたとしても、私は靖国歴史観を批判し続けます。

*5:たとえばhttp://blog.livedoor.jp/rr_aikokuhosyu/archives/50348196.html

*6:たまに大新聞でも見かけるのは嘆かわしい限り