最後に、将来的なちょっとした懸念を

原発利権」という言葉があります。現在は主に反原発派による原発へのネガティブキャンペーンに用いられる用語です。そもそも資本主義社会である以上、あらゆる経済活動に何らかの「利権」が存在するのは当然であり、利権を持つというだけで何かを否定する論法は嫌いです。実際、上で論じたとおり、現時点では原発を維持してそこから利益を得ようとする人々が存在するのは当然であり、今のところ特に問題視する必要は無いと考えます。

ただし、将来的に様々な代替エネルギーの開発・改善・低コスト化が進み、相対的な原発の発電コストが上がった場合はどうなるでしょうか。仮に市場システムが十分に働いていれば、発電業者や消費者は次々と代替エネルギーにシフトし、自動的に原発ゼロが実現します。実際、発送電分離電力自由化によるフェードアウト的な脱原発を公約に掲げる政党もあるようです。しかし、こと電力に関しては、市場を信頼するのは危険ではないかと私は思っています。経済学でよく知られている通り、規模の経済(簡単にいえば生産量が増大するほど単位生産量あたりの平均費用が低下すること)が存在する場合、市場システムはうまく働きません。原発のような大規模施設を要する発電には明らかに規模の経済性があります。規模の小さい風力のような発電には規模の経済が存在しないから大丈夫という意見もありますが、送電には規模の経済が厳然と存在し、たとえ組織的には発送電を分離したとしても供給システムとしては不可分なわけですから、そこから何らかの綻び(特定の発電業者の“優遇”や電力供給不安定など)が生じる不安を拭い去ることができません。脱原発の過程でそのような綻びが生じたときこそ、「利権」を問題視すべきだと思います。そんなわけで、代替エネルギー開発が進んだ暁にスムーズに原発ゼロを実現できるよう、国が強力な施策を講じることもいずれ必要になってくるでしょう。