ガス田問題は共同開発への道を探るべし

明日3月6日から、東シナ海ガス田開発問題に関する日中の局長級協議が再開されます。


詳しい人には釈迦に説法ですが、この問題についての超簡潔な入門的概説を。東シナ海ガス田問題とは、日中の排他的経済水域内にあるガス田を中国が開発したことに関わる問題。日本は「資源埋蔵地域が中間線をまたいでいるため日本の資源が吸い取られる」と抗議しています。


対立の背景には、排他的経済水域についての日中の主張の違いがあります。日本は国際海洋法条約の「等距離原則」に従って日中の中間線を境界にすべし、と主張。一方、中国は国際海洋法条約の「大陸棚自然延長の原則」に基づき、大陸棚を延長した沖縄トラフ(西南諸島の西・約100kmにある海盆)を境界にすべし、と主張しています。ちなみに、最近の国際判例に照らせば、日本が主張する「等距離原則」の方が一般的です*1


中国は2003年にガス田「春暁」(日中の中間線よりほんの僅か中国寄りの場所)の建設に着手。2004年以降、日本は「春暁」の開発中止とデータ提供を求めていますが、中国は当然のように拒絶し、代替案として共同開発を提案してきましたが、中間線よりも日本側のみでの開発提案だったため日本側もこれを拒否。2005年10月以降、日本は双方の海域共同開発を提案していますが、中国側は難色を示しています。


以上でガス田問題入門は終わり。


さて、この問題は、日中どちらに理があるでしょうか? 上に述べた通り、境界画定の件では日本に分があります。しかし、中国の採掘行為そのものは中国側海域で行われているので(少なくとも現時点では)合法。また、この問題については、(よく言われることですが)30年以上も前から独自に調査・開発してきた中国に対し、日本側の対応の遅れが目立ちます。中国側が一旦得た既得権益をそう易々と手放すはずはありません。


実際、局長級協議直前になって、中国は改めて共同開発に難色を示してきました。
春暁ガス田、中国が共同開発に難色(朝日新聞)

 政府関係者によると、唐委員は2月22日の二階経産相との会談で、春暁ガス田について「中国が開発している海域は(日本の主張する)中間線より中国側にある」と、従来の立場を強調。資源が吸い取られるとの日本の主張については「我々を欺こうとするものだ」と不快感を示したという。

 一方、同日に二階経産相と会談した温家宝(ウェン・チアパオ)首相は「争いを棚上げにして共同開発を進める」と、東シナ海一帯でなんらかの共同開発を進めることには意欲を示したという。

 日本側は、昨年10月の前回協議で春暁を含む中間線をまたいだ双方の海域での共同開発を提案している。次回協議で中国側が新たな提案を表明する予定だ。

中国側の強気の姿勢は、領土問題を扱う限りは当然。日本側も、自らに理がある件で弱腰になってはいけないと思います。とは言え、既に述べた通り、この問題では中国側にもそれなりの正当性があるので、日本がやたらと強気に出ても、結局は何も得られずに終了する可能性が高いでしょう*2。最終的には、「ある程度日本の利益になる共同開発」での決着を目指すのが妥当な線ではないでしょうか。


その意味で、現在の経済産業大臣が中国側から一定の信頼を得ている二階俊博氏であることに、ほんの僅かながら希望が持てます。現在の日本政府の中で、中国のトップとまともに対話が出来る数少ない人物。小泉首相も、二階氏のこのような特性を買って経産相に指名したのでしょう。


なお、二階氏は一部の対中強硬派から“媚中派”と揶揄されているようですが、今朝の今朝のテレビ朝日サンデープロジェクト」での発言から判断する限り、“親中派”であっても決して媚びてはいないと感じました*3。例えば「靖国問題譲歩を条件に交渉してくるようなら、こちらにも言うことがある」という内容のことを話していました*4。また、二階氏は「中国はそう簡単に共同開発には応じないだろう」との慎重論も述べていました。中国は一筋縄ではいかない国。でも、対話が出来ないことには何も始まりません。二階氏のような人が交渉のテーブルにつくことで、中国側が少しでも「争いを棚上げにする」姿勢を見せてくるか否か、興味があります。今後、様々な日中懸案の解決に取り組む上で、何らかの参考になるでしょう。

*1:現在の政府見解については、http://www.mofa.go.jp/mofaj/comment/faq/area/asia.html#11を参照

*2:強硬試掘を主張する人もいますが、軍事衝突のリスクに見合うほどの利益を得られるとは思えないので、賛同できません

*3:あくまでも主観です。「媚びる」という言葉の捉え方が人によって違う可能性もあるので。

*4:当然のことですが、ガス田と歴史認識問題は全く別次元であるべきです