「格差」と「困窮」のどちらが問題なのか

いわゆる「経済格差問題」に関する次の記事の内容に、ちょっとした違和感もしくは疑問点を感じました。
小さな政府で格差拡大せず 安倍、竹中氏ら反論(共同)

 安倍晋三官房長官竹中平蔵総務相らは20日午前の記者会見で、公明党神崎武法代表らが小泉改革に伴う経済格差拡大への懸念を示していることについて「小さな政府であれば格差が拡大するとは思わない」(竹中氏)などと反論した。

 安倍氏は「19日の『月例経済報告に関する関係閣僚会議』で、内閣府が『統計データから経済格差は確認できない』との説明をした」と指摘。その上で「格差社会ができないよう政策を行ってきたが、もう少し国民に説明することも重要だ」と強調した。経済格差問題が9月の自民党総裁選では「どういう社会をつくっていくかということでは当然、議論されると思う」と述べた。

 竹中氏は「機会の均等をしっかり確保し、再チャレンジできるシステムをしっかりつくることが格差を拡大させない最大のポイントだ」と強調。麻生太郎外相は「(格差拡大は)感覚としては分かるが、数字で裏付ける資料はない」と述べ、中馬弘毅行革担当相は「前より苦しくなったとかいう感覚は国民は持っていないと思う」との見方を示した。谷垣禎一財務相は「日本人には(IT株の売買など)錬金術で大金持ちが次々と生まれるという状況がいいのかという気持ちがどこかにある」と神崎氏らの懸念の背景を分析した。

まず、竹中平蔵氏の「小さな政府であれば格差が拡大するとは思わない」にはハッとさせられました。やや詭弁っぽいですが、ある意味で真。さすが経済学者。格差が拡大するか否かは政府の大小のみではなく、景気などの様々な経済的要因や、所得再分配政策のあり方に依存するからです。極端なたとえですが、大きな政府であっても富裕層に補助金を出すような政策を行えば、格差は拡大します。


かねがね疑問に思っていたことが一つ。最近、色々な人が「所得格差拡大」への危機を叫んでいます。たとえば、先日完結した毎日新聞の特集「格差の現場から」などが典型。国民の中でも、この問題に関心を持つ人は多いと思われます。


しかし、彼らは本当に「格差」を問題視しているのでしょうか? 問題視されているのは、主に「一部のフリーターや高齢者等の低所得者層の生活困窮」ではないでしょうか? 毎日の特集を読む限り、そう思えます。だとしたら、厳密な「格差問題」とは少し違うと思うのです。「格差」を解消しようと思ったら、累進課税の強化など、本格的な所得再分配政策が必要になります。しかし、「格差」そのものではなく「困窮」を解消したいなら、フリーターやニートが正社員になれるような、あるいは高齢者が働けるような雇用政策なども選択肢になります。必要な対策が微妙に異なるので、両者は区別されるべきだと思います。


id:dslender:20060102で述べたとおり、私自身は「格差」そのものをさほど問題視していません。努力や才能や機会に恵まれた人が大きく報われることには意義があると思っているからです。一方、生活に困るほどの「貧困」が存在するとしたら、何とかすべきだと思っています。


そういえば、一昨日、ジニ係数*1の増大傾向に対し、内閣府が「見かけ上の問題で、実質的には格差は拡大していない」という見解を示したことが報じられました。
所得格差の拡大「見かけ上の問題」 内閣府が否定(朝日新聞)
朝日の論調は案の定批判的。確かに、「見かけ上」と客観的に断定できるほどのデータは存在しないように思われます*2


谷垣氏の指摘の通り、「錬金術での大金持ち」を嫌う人(つまり「格差」そのものを問題視している人)も確かに存在しそうです。「どのような状態が公平なのか」という所得分配問題には万人が納得できる唯一の正解などありません。総裁選では「どのような所得分配の社会にしていくか」を明快に打ち出して争点にして欲しいものです。自民党がより多くの人から注目を集めるためにも必要なことだと思います。

*1:所得格差を表す指標。詳しいサイトはhttp://www.nihonkaigaku.org/ham/eacoex/100econ/120doms/122dist/1224inc/gini/gini.html

*2:既に述べたとおり、私自身は「格差拡大傾向は存在するが、それ自体は問題視しない」という立場を取っています