市場原理主義の弊害とは

昨日の記事に引き続き、元日の読売社説への所感です。
人口減少時代へ国家的対応を 市場原理主義への歯止めも必要だ(後半)

 もともと市場原理主義者の跳梁(ちょうりょう)は、80年代前半の米国で始まった。

 その弊害を見ながら、日本では対応が遅れた。法整備が動きだしたばかりで、企業の防衛策についての法解釈も確定しない部分が多い。


 これ以上、市場原理主義者につけこまれないよう、本格的、包括的な資本市場法制の整備を急ぐ必要がある。経済風土が荒廃しては、国際競争にも支障が出かねない。

読売社説は「市場原理主義の弊害」を強調し、投機ファンドや株買占めを悪とする立場をとっています。


市場原理主義の弊害って何でしょう? 投機ファンドや株買占めが一部の企業の利益を損なう可能性があることは確かです。それでも、逆に得をする人も居ます。買収によって企業が再生したと思われる事例もあります*1。私には、それが「経済風土の荒廃」だとは思えません。


読売の記事には明記されていませんが、「市場原理主義は貧富の差を広げる」と主張する人もいます。それは事実でしょう。しかし、貧富の差があるだけなら、私は全く構わないと思います。「機会に恵まれ、かつ努力した人が多額の富を得られる」社会であることも貴重だと思うからです。力のある人が正当な報酬を得て何が悪い? ということ。この辺は異論もあるのでしょうが。


確かに、失業率が高かったり、就業しているにもかかわらず普通に生活できないような賃金体系が罷り通っていては拙いので、最低限の雇用対策や法整備は必要でしょう。しかし、「市場原理主義」を崩したり、投機的取引を制限するには及ばないと思います。


投機的取引などより、昨年の福知山線脱線事故や、耐震強度偽装事件に見られるような一部の企業モラルの荒廃の方が心配です*2。これらの事件で得をした人などほぼ皆無でしょう*3。これらは、いずれも企業が短期的利益のみに拘泥し過ぎたゆえの悲劇ではないでしょうか。短期的利益のみを重視するから安全装置設置を怠ったり、少ない鉄筋で建築を済ませようとするわけです。何かあったら長期的利益を決定的に損なうというのに……


このように、市場の勝手に任せるだけでは、人は目先の利益のみに拘ってしまう傾向があるようです。この辺には政府が積極介入する必要があると考えます*4


読売社説に戻ります。【EU的共同体は幻想だ】では、政治体制が異なる中国と“EU的な共同体”を組むのは無理がある、と主張しています。個人的に、今のところ「東アジア共同体」問題にはさほどの関心や拘りが無いのでパス。


最後の部分を引用します。

超党派で国家像確立を】

 いまからでも遅すぎるということはない。人口減少・高齢化時代の国家の将来像を確立するための議論を早急に始めなければならない。

 もちろん、世界の中の日本としての国家像も確立しなくてはならない。

 外交面では、日米関係を良好に保ったことは功績とみてよい。だが、靖国参拝により、結果として、対中、対韓関係は冷え込んだ。中・韓にはそれなりの外交的思惑があるにしても、放置しておくわけにはいくまい。

 国際協力活動のあり方についての戦略的態勢も整える必要がある。

 日本が国際協力をするに際して、足かせになっているのが、集団的自衛権の「行使」問題である。いつまでも国際的責任から逃げていてはならない。憲法改正を待たず、政府解釈の変更によって対応すべきである。

 これらは、与野党を超えた国家的課題だ。最大野党の民主党も、内外にわたる国家戦略確立に向けて、大連立も辞さないくらいの責任感をもって取り組んでもらいたい。

読売新聞の政治的な論調は*5現実的かつバランスが取れていると感じられるので、個人的に好感を持っています。たとえば日中関係についても、中国の抱える問題点を意識し警鐘を鳴らしつつも、決して嫌中には走っていません。


なお、民主党自民党の大連立への所感は、エントリを改めて書きます。

*1:新生銀行が典型例

*2:該当するのが一部の企業のみであることを切に願います

*3:一部マスコミの記事の種にはなったかも知れませんが

*4:耐震偽装事件に関して、保険制度などの整備が検討されていることが一例

*5:渡辺恒雄氏の考え方は、と書く方が正確かも