防衛庁の「省」昇格問題と公明党

防衛庁の「省」への昇格について、今月初め頃に公明党の幹部が条件付で容認したものの、党内からは異論が相次いでいる件について。
公明の「防衛省」論議、越年へ…党内に慎重論根強く(読売新聞)

 防衛庁の「省」昇格問題で、公明党執行部は21日、当初目指していた年内に党内の了承を取り付けるという方針を断念し、年明け以降も議論を続けることを決めた。


 党内では依然、反対・慎重論が大勢であるためで、早期の意見集約は困難だと判断した。


 20日の党外交安保・内閣合同部会には約20人が出席、「なぜ今、昇格なのかが不明だ。支持者に説明できない」との慎重論が多数を占めた。「『平和の党』のイメージが崩れる」「昇格を認めれば、憲法改正集団的自衛権行使を認めるところまで引きずられかねない」などの意見も相次いだ。

 このため、神崎代表も、「これ以上言うことがないというところまで(議論を)やるしかない」としているが、幹部の一人は「『省』昇格を認める結論は変わらない」とあくまで強気の姿勢を崩していない。
公明党の支持者には、軍事的要素を嫌う素朴な平和主義志向の人が多いので*1自衛隊の権限が少しでも強まる改革には抵抗が強いのは当然でしょう。


さて、「省」になるメリットって何でしょう。これについては、Wikipediaが詳しく、わかりやすいです。

 防衛庁はその発足以来半世紀を経過していながらいまだ「省」への昇格がなされず、その権限拡大を望む勢力による検討議論が頻繁になされている。これには自衛官の士気向上や各国の国防組織(多くは省レベル)との均衡を図る、などの目的が考えられる。防衛庁が「省」でないことによるデメリットとしては、省令の制定・改廃を比較的速やかに行える「省」に対し、「庁令」を制定する権限を持たないため「内閣府令」として制定・改廃を内閣府本府の大臣官房に上申する形となるため、手続が繁雑で遅くなる、などの点が挙げられている。


現在、防衛庁長官が命令できるのは「警備行動」までであり、それより上位の「警護出動」・「治安出動」、最上位の「防衛出動」は、内閣府の長である内閣総理大臣に命令権がある。省昇格により、有事の際に自衛隊の出動命令等を「防衛大臣」の独自判断で行えるようになる、と期待する向きもあるが、省昇格を支持する勢力の国会議員にあっても、文民統制尊重の観点から法文上は内閣総理大臣の最高指揮権限を残す(従来どおり防衛担当の国務大臣による一定の歯止めを残す)べきとの意見が多く、省昇格が実現してもその効果はこの項の冒頭に述べたように主として「平時の」事務手続緩和、隊員の士気、他国との均衡の改善にとどまり、「有事の」防衛大臣一任制度のような抜本改定の早期実現は薄いと考えられる。

結局のところ、「省」昇格の現実的なメリットは、ほぼ

  • 事務手続き簡素化
  • 隊員の士気
  • 他国との均衡改善

に留まるようです。これでは昇格反対派を納得させるには弱いでしょう。事務手続きに関しては、「面倒がらずにやれ」と言われればそれまでですし、「他国が『省』だからと言って日本も真似る必要ないじゃん」というのも正論だと思います。士気については高い方が良いのは確かですが、一般隊員の士気がどれほど上がるのかは定かではありません。


とは言え、昇格の決定的デメリットも見当たらないように思います。「『省』昇格→軍国主義→戦争をする国」というシナリオを考えている人も居るでしょうが、これは余りにも非現実的。


以上より、私個人の意見は「『省』でも『庁』でもどっちでもええやん」です。


しかし、公明党の立場から見た場合、困難はあるでしょうが最終的に「省」容認で合意する方が得策でしょう。党幹部が(条件付きながらも)昇格に合意しているわけですから。現在の国会勢力を考えても、反対を貫くことは非現実的です。合意する代わりに“専守防衛”“文民統制”の原則がより明確に内外に伝わるような法整備を訴えるなど、支持者が持つ“平和の党”のイメージを壊さない手段はいくらでもあると思います。

*1:だから、イラクへの自衛隊派遣の際も、合意を得るのに苦労していました