中国とは依然として政冷経熱
朝日新聞で紹介されていた中国新華社通信の主張が少し面白かったので引用&感想を。
日中関係、「政冷経熱」が「政冷経涼」に 新華社通信(朝日新聞)
中国の国営新華社通信は19日、今年の日中関係を振り返る論評を発表した。小泉首相の靖国神社参拝によって冷え込んだ政治関係が、経済や貿易関係にも悪影響を与え、「政冷経熱」が「政冷経涼」に変わりつつあると指摘した。
以前にも書きましたが、私の対中認識は、
という感じ。だから、新華社通信の言う通りだとしたら由々しき事態なのですが、実際は……
論評は、今年1〜8月の中国の貿易総額が23.5%伸びたのに対し、対日貿易額は10.3%増にとどまったことを指摘。「経済的な補完性が強い中日両国の経済、貿易協力のテンポが鈍っているのは非常に残念」とした。
うーむ、日中の貿易額は一応10%以上も増えているではありませんか。主観的表現の問題になりますが、これで経済関係が「涼」になったと言えるのでしょうか?
参考までに、日中貿易の推移表を書き写しておきます(単位:千ドル、%)*2。
輸出 | 伸び率 | 輸入 | 伸び率 | 総額 | 伸び率 | バランス | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1990年 | 6,129,532 | -28.0 | 12,053,517 | 8.1 | 18,183,049 | -7.5 | -5,923,985 |
1991年 | 8,593,143 | 40.2 | 14,215,837 | 17.9 | 22,808,980 | 25.4 | -5,622,694 |
1992年 | 11,949,074 | 39.1 | 16,952,845 | 19.3 | 28,901,919 | 26.7 | -5,003,771 |
1993年 | 17,273,055 | 44.6 | 20,564,754 | 21.3 | 37,837,809 | 30.9 | -3,291,699 |
1994年 | 18,681,588 | 8.2 | 27,566,032 | 34.0 | 46,247,620 | 22.2 | -8,884,444 |
1995年 | 21,930,842 | 17.4 | 35,922,309 | 30.3 | 57,853,151 | 25.1 | -13,991,467 |
1996年 | 21,889,808 | -0.2 | 40,550,035 | 12.9 | 62,439,843 | 7.9 | -18,660,227 |
1997年 | 21,784,692 | -0.5 | 42,066,036 | 3.7 | 63,850,728 | 2.3 | -20,281,344 |
1998年 | 20,021,591 | -8.1 | 36,895,859 | -12.3 | 56,917,450 | -10.9 | -16,874,268 |
1999年 | 23,335,617 | 16.6 | 42,880,250 | 16.4 | 66,215,867 | 16.3 | -19,544,630 |
2000年 | 30,427,526 | 30.4 | 55,303,392 | 29.0 | 85,730,918 | 29.5 | -24,875,866 |
2001年 | 31,090,723 | 2.2 | 58,104,744 | 5.1 | 89,195,467 | 4.0 | -27,014,021 |
2002年 | 39,865,578 | 28.2 | 61,691,604 | 6.2 | 101,557,182 | 13.9 | -21,826,026 |
2003年 | 57,219,157 | 43.5 | 75,192,802 | 21.9 | 132,411,959 | 30.4 | -17,973,645 |
2004年 | 73,832,952 | 29.0 | 94,214,984 | 25.3 | 168,047,936 | 26.9 | -20,382,032 |
2003年や2004年の伸び率は確かに凄いですが、今年前半の10.3%増というのは、単に2001年や2002年辺りの水準になったというだけで、憂慮するに当たらない、という見方もできるでしょう。
日中関係は国交正常化した72年以来、最悪の「厳冬期」にあるとの認識を示し、「小泉首相が全責任を負うべきだ」とした。環境やエネルギー、安全保障などの問題で「両国が国際社会で果たすべき役割を十分に発揮できていない」と指摘した。
朝日の記事の引用は以上で終了。政治面に絞れば、現在の日中関係が最悪、という認識は正しいかも知れません。
しかし、既述の通り、経済関係は最悪ではありません。百歩譲って経済関係が「涼」状態にあると仮定しても、靖国参拝を続ける小泉首相に責任があるとは思えないのです。その理由については、日本貿易振興機構のpagehttp://www.jetro.go.jp/jpn/reports/05000896から引用します。
(5)2005年の貿易総額は引き続き過去最高を更新、1,900億ドルを突破する見込み
2005年の対中貿易は、輸出においては、パソコンや家電の世界需要の後退と耐久消費財の在庫調整の動きが長引く可能性があり、やや不透明感が残るものの、中国の内需向けの完成品、素材や部品など中間財の堅調な輸出増加が見込まれ、輸入においては、日系企業の生産拠点の中国シフトが続いていることから、完成品の一層の輸入増加が見込まれる。以上のことから、2005年の日中貿易は引き続き輸出入ともに拡大し、通年の貿易総額は7年連続で過去最高を更新すると思われる。
つまり、需要の伸び悩みなどの純粋経済的要因が原因である可能性が大。しかも、id:dslender:20051018#p1に書いた通り、「中国経済は政治に影響を受けないほど成熟している」という見方もあります。以上の理由により、日中の経済関係を靖国問題に結びつけるのは客観的無理がある、と考えられます*3。
ところで、新華社通信がこのような論評を出してくるということは、中国も日中経済関係の冷却を望んでいない、ということなのでしょう。だとすれば、今後の日中関係が決定的に悪くなる可能性は小さいと思います。徒に関係を悪化させる言動を避けるべきなのは勿論ですが、さほど悲観視する必要も無いのかも知れません。