前原氏の「中国脅威論」は拙かったか

12月9日のエントリ「前原氏の具体的な改正提言」では、民主党の前原代表の講演内容のうち、憲法9条改正の必要性に直接関わる部分だけを取り出して高評価してみせました。「中国脅威論」をぶちあげた部分については、「言いたいことはわかるけど表現的に如何なものか」と思ったのですが、敢えて触れませんでした。中国側の反応を見たかったのです。


結果的に「中国脅威論」は余り好ましくなかったようです。
要人会談が突然キャンセル 「前原外交」は空振りに(共同)

 民主党前原誠司代表の米中歴訪は13日、要望していた胡錦濤国家主席との会談が実現しないまま主要日程を終えた。


 中国側は事前調整で同日午後に胡氏か曽慶紅副主席らトップクラスの要人会談を設定する方針を示していたが、直前になって「都合がつかない」と通告してきたとされ、前原氏が8日のワシントンでの講演での中国脅威論などに反発した可能性が高い。


前原氏は12日の北京の外交学院での講演で、首相の「日米関係万能論」を批判し、「隣国との友好関係を築かずに世界の平和と安定に貢献しようと思っても夢物語に終わる」と強調した。


 しかし聴衆の学生らからはワシントン講演で「中国の軍事力増強は現実的脅威」とした発言への真意をただす質問が続出。呉建民院長が「日本の軍事力も中国への脅威で、前原氏の論理はまったく成り立たない。冷戦時代の発想だ」と切り捨てると、会場から拍手がわく場面もあった。

一般論として、国が自衛のために軍事力を強化するのは当然。前原代表もそう考えて憲法9条の改正を主張しているのでしょう。だとすれば、中国の軍事力増強自体に難癖をつけるのは矛盾しているとも言えます*1。呉建民氏の突っ込みもむべなるかな。批判するなら、ガス田などの具体的事案に留めておけば、少なくとも矛盾に突っ込まれることはなかったでしょう。

 米国で前原氏はイラク対応について「(米軍の)出口戦略が見えない」と指摘しつつ、自衛隊の派遣延長への反対を表明。しかしバーンズ国務次官に「イラクの政府がつくられようとしているときに邪魔をする政府は、責任ある政府に値しない」との言葉で、民主党の「政権担当能力」への疑問を提起されるなど、すれ違いも際立った。

こちらは米国からの批判。シーレーン防衛の重要性を強調しつつ、一方で米国のイラク対応を批判するようでは、矛盾と言われても仕方がないかと。

 前原氏は13日夜、北京市内で記者会見し、中国要人との会談見送りについて「靖国問題が解決しても、すべてがうまくいくわけでないことが明らかになった」と中国側の対応を批判。同時に「誰かに会うために自説を曲げることがあってはならない」とも強調した。


 しかし北京を訪問した歴代民主党代表で国家主席と会えなかったのは初めてで、同日の党常任幹事会では「講演内容の相談を誰も受けていない」「党の結束を乱す行為を代表自身がしているなら大問題だ」との代表批判も噴出した。

「自説を曲げない」で中国に言うべきことは言う、という姿勢自体は良いと思いますが、揚げ足を取られないような言葉を選んだり、過度に機嫌を損ねないように表現に工夫を凝らすことも必要ではないかと。


以前から書いている通り、私は前原氏の持論の内容には概ね同意しています*2。ただ、表現の仕方には工夫の余地があるように感じます。

*1:ちなみに、小泉首相も「中国は軍事費を国民生活に」のような発言をしていますが、この人の場合、靖国関連で既に徹底的に嫌われているので、これ以上心象が悪化しようがないわけです。そもそも“脅威”とは言っていない

*2:イラク撤退論には同意できません。ただ、これは前原氏というより民主党の以前からの公約なわけですが