徴兵否定の明文化が望ましい

以前書いた通り、憲法第9条の改正実現への最大の関門は国民投票になるでしょう。9条改正反対派は決して少数ではないからです*1


更に言えば、最終的な鍵を握るのは徴兵制ではないかと思われます。徴兵に反対する国民は明らかに多数派ですし、私自身も絶対的に反対です。仮に国民の多くが「憲法が変わればひょっとして徴兵制になり得るかも」と思っているようでは*2、改正は実現困難です


尤も、日本での徴兵の実現可能性は極めて小さいのが現実でしょう。徴兵は現行憲法18条「苦役の禁止」に反する、というのが政府解釈だそうです。この18条は自民党憲法草案にもちゃんと残っています。また、よく聞かれる「現代は戦争がハイテク化していて、兵器を扱うには熟練が必要。徴兵は足手まといになる」という主張*3も確かに正しいはず。


しかし、解釈による徴兵違憲論は、改正反対派を翻意させるほどの説得力に欠けると思われます。たとえ徴兵制が解釈で違憲だったとしても、「解釈改憲」で自衛隊を合法化した実績があるので、徴兵制も合法化される可能性を残すからです。また、「戦争ハイテク化論」も所詮は状況証拠や常識論に過ぎないのでやや弱いです。たとえば「徴兵好きな人」が政権を握った場合、足手まといな徴兵でも採用されてしまう可能性はゼロではない(と思われてしまう)からです。


ここでの「徴兵好きな人」とは、「若者は訓練のために自衛隊に入るべし」と言うタイプの中高年とか、自民党石破茂・元防衛庁長官のような人を指します。


ここで、日本戦略研究フォーラムのサイトから、石破茂氏の発言をいくつか拾っておきましょう。


まず、21世紀における日本の憲法は如何にあるべきかNo.4から、

いざという時には、現役の自衛官だけで、この国が守れるか、甚だ怪しい、と私は思う。国民の中に防衛思想が広く普及しないのは、「国防は、一部の愛国心のある人、使命感のある人達がやるものだ」と多くの人々が思っていることにある。だから本当は書きたい。少なくとも「徴兵制をとってはならない」とだけは絶対に書いてはならない。自分の国を守ることが奴隷的苦役というような国はない方がましだ。この考え方は非常に少数説で、しかも多くの理解を得ることが出来ないことは分かっているが、誰かがそれを言い続けなければならない。

かなりの感情論。「現役の自衛官だけで、この国が守れるか、甚だ怪しい」も客観的根拠薄弱ですし、「自分の国を守ることが奴隷的苦役というような国はない方がましだ」という考え方も私には全く理解不能です。


更に、21世紀における日本の憲法は如何にあるべきかNO.3からも引用。

解釈改憲でいくべきだ」というのは特に第9条である。「集団的自衛権を認めるということは、必要最小限を超える」という話は法律判断ではなくて、政策判断である。そうでなければ、「必要最小限」という曖昧な言葉は絶対に出てこない。それが政策判断である以上、第9条は解釈で変えるのが当たり前であって、明文で変える方が余程おかしい。

ハァ? 解釈改憲で成り立つ自衛隊の現状が良くないから9条を変えるのでは? もちろん、状況によっては解釈改憲で現実に対処することも必要ですが、「まず解釈改憲ありき」では、民衆の理解は得られません。


石破氏のような人が自民党で政権中枢の近くにいるというだけで、徴兵への恐怖を感じてしまう人も居るはずです。その意味で、石破氏は9条改正への抵抗勢力に見えます。少数派であることは救い。


一方、石破氏と対極にある人のブログを引用してみましょう。ネット右翼から蛇蝎のごとく嫌われている社民党辻元清美議員です。ガチガチの護憲派自民党の草案と徴兵をどのように見ているのか、よくわかります。
必読! コレさえ読めばすべてが分かる自民党「新憲法草案」のカラクリ

②前文+9条の2の4+86条=徴兵制
自民党草案の前文には、国を「愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務」が書かれています。これと9条の2の4、「自衛軍の組織および統制に関する事項は、法律で定める」を組み合わせればどうなるか。時の政府が必要と定めたら、徴兵制すら可能になるのではないでしょうか。さらに現憲法9条にある「国の交戦権はこれを認めない」がすっぽり消えています。戦争できる憲法にするということです。

前文の「責務」を徴兵制に結びつける解釈は幾分強引だと感じられます*4。よって、辻元氏の論も多数の支持を得ることはないでしょう。しかし、9条改正に消極的な国民を納得させるだけの説得力は持っています。


9条改正派が辻元理論を圧倒する説得力を得るには、「徴兵制採用の可能性はゼロ」だと国民に思わせることが必要だと思われます。「常識的に徴兵制はあり得ない」というレベルでは弱いです。


かつて自民党でも「徴兵禁止」を憲法案に含めていた時期があったものの、石破氏の反対で消滅したと聞きます。ここは是非、自民党でも「徴兵禁止」を草案に復活させてみてはいかがでしょうか*5。これだけで、9条改正の実現可能性は相当に高まるはずです。

*1:今年9月の毎日新聞世論調査によると「憲法9条を変えるべきではない」と答えた人が62%にのぼりました。世論調査は聞き方や設問の作り方で結果が左右されるので、実際にはもう少し少ない可能性もありますが、改正案が国民投票を楽々通るような状況でないことは確実です。

*2:このような視点での調査結果は存在しないと思われるので、実情はよくわかりません

*3:各所掲示板やブログを見る限り、この主張は憲法改正派が「サヨク」を説得する際の定番になっているようです

*4:18条を徴兵否定に結びつけるよりも強引かと

*5:http://d.hatena.ne.jp/dslender/20051108#p1に書いた通り、民社協会の案には徴兵禁止があるのですから、決して荒唐無稽ではありません