自民党新憲法草案は結構良い

自民党が新憲法草案を発表しました。まずは一般的なニュースへのリンクをひとつ。
自民が新憲法草案決定、自衛軍保持を明記(読売新聞)


ここでは、全文を掲載している四国新聞の記事から引用し、寸評をつけておきます。


まずは前文から。

 日本国民は、自らの意思と決意に基づき、主権者として、ここに新しい憲法を制定する。


 象徴天皇制は、これを維持する。また、国民主権と民主主義、自由主義基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、不変の価値として継承する。


 日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感と気概をもって自ら支え守る責務を共有し、自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図り、教育の振興と文化の創造及び地方自治の発展を重視する。


 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため、協力し合う。国際社会において、価値観の多様性を認めつつ、圧政や人権侵害を根絶させるため、不断の努力を行う。


 日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球の環境を守るため、力を尽くす。
簡潔で良いと思います。これなら、憲法改正に賛成する多くの人に容認されるでしょう。従来の素案(四国新聞)には「アジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々*1」とか、「国を愛する国民の努力によって国の独立を守る*2」とか、「和を尊び、多様な思想や生活信条をおおらかに認め合いつつ、独自の伝統と文化をつくり伝え*3」などの保守好みの情緒的語句が含まれていましたが、片っ端から削除されました。大歓迎です。以前http://d.hatena.ne.jp/dslender/20051014に書いた通り、多くの国民の支持を得るには、表現をいじらずに実質的な改正に留めることが不可欠だと思われるからです*4


次に第9条に関して。
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。


 (自衛軍


第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。


2 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。


3 自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。


4 前二項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。
既にhttp://d.hatena.ne.jp/dslender/20051015に書いた通り、9条改正に賛成する人の多くが容認できる良い案だと思います。ただ、国民の中には「9条改正すなわち戦争・徴兵」という発想をする人がまだ相当にいます。改正を焦るべきではないし、焦る必要もないと思います*5自民党には、数年掛かっても良いので、多くの国民の納得を得る努力を望みます。


少し気になるのは、信教の自由に関連する第20条です。
第二十条 信教の自由は、何人に対しても保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。


2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。


3 国及び公共団体は、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって、宗教的意義を有し、特定の宗教に対する援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。
「社会的儀礼又は習俗的行為」って何でしょう? 個人によって解釈が異なる曖昧な概念だと思います*6。揉めそうな予感。


全体的には、良い憲法草案だと思いました。これなら、私は十分に納得して賛成票を投じます。

*1:Webに載っていない読売の記事によると「沖縄は東シナ海に囲まれている」という異論があったそうです

*2:「愛国」に抵抗を感じる国民は少なくありません

*3:歴史認識や伝統認識は意見が分かれるので、憲法に含めないほうが無難

*4:Webに載っていない読売の記事によると素案にあった保守色の強い表現は小泉首相の意向で削除されたとか。

*5:焦って国民投票で否決されでもしたら、努力が水泡に帰すおそれが大です

*6:靖国参拝問題を意識しているのでしょうが。私にとっては神社参拝は習俗でも何でもありません