脱原発への私見

まず大前提として、将来的に原発は絶対にゼロにすべきです。万一の大事故の際のリスクと放射性廃棄物の最終処分問題が余りにも大きいからです*1。ただし、その「将来」がいつ頃であるべきか、現時点では明確にできません。たとえばある政党の公約に「10年後に原発ゼロ」とありますが、到底支持できません。あくまでも私の直感ですが、少なくとも数十年後、もしかしたら数百年後にならないと、大多数の日本国民が原発ゼロを歓迎できる状況にはならないかも知れないと危惧しています。

原発をゼロにするために必要な代替エネルギーは、現時点で様々な問題を抱えています。

火力の割合を増やすのは短期的にはアリですが、エネルギー市場関連のリスクも増えますし、化石燃料の消費を増やすのは長期的に賢明とは思えません*2。風力や太陽光などの新エネルギーは、現時点で安定性やコスト等の問題があります。特に日本においては、地形的な理由で送電網構築コストが欧米に比べて高くなることも考えられます*3

つまり、性急に原発ゼロを断行すると、事故リスクが大幅に軽減する代わりに、電気料金大幅増などの負担が国民にのしかかる可能性が高いわけです。しかも、既に原発が存在する以上、放射性廃棄物問題から逃れることはできません。事故リスクを軽減する代わりに不安定やコスト大幅増を受け入れるのか、あるいは電力需要と生活水準を落として乗り切るのか*4、事故リスクをある程度抱えながら安定供給と可能な限りのコストコトロールを行っていくのか、これがまさに政治というものです。

そこで、原発事故リスクの評価が重要になってきます。一旦事故が起きた場合の被害は確かに大きい。しかし、大量の死傷者につながる事態になり難いことは経験済みです*5。また、昨年の大震災でも無事だった女川原発の例、福島第一と条件が類似していながらギリギリのところで大惨事を免れた福島第二原発の例を考えると、昨年3月の悲劇を教訓に更に安全対策を強化できれば、もし近い将来に東日本大震災クラスの自然災害が起こったとしても、原発事故を防げる可能性は高いと思っています。

以上より、私の原発問題への考え方は、将来的には原発ゼロにすべきだが、当面は安全対策強化を条件に原発存続を容認、必要ならば原発新設も可、というものになります。

なお、日本は活断層だらけで地震リスクが大きいため、そもそも原発を作ってはならないと主張する人もいるようです。確かに、日本国内はどんな場所でも大地震のリスクが存在すると言って良いでしょう*6。視点を変えれば、作るならどこに作っても地震リスクはさほど変わらないという論も成り立ちます。繰り返しになりますが、昨年の震災でも無事だった原発の存在を考えると、性急な脱原発に走るよりも、徹底的な安全対策と代替エネルギー開発への道筋構築を行った上で、当分は必要に応じて原発を維持する方が良いと考えます。

*1:この点に異議を唱える人はいないと思いたい……

*2:ただし、将来的にシェールガス採掘のコスト・環境負荷が軽減した暁には、もう少し火力への信頼を増しても良いかも知れません

*3:再生可能エネルギーは本命か 複雑な日本の送電網が抱える課題(日経BP)

*4:生活水準を高度成長前程度に落とすなどはさすがに非現実的過ぎるでしょう。また、昨年の計画停電のような事態は個人的に許容できませんし、経済界も許さないでしょう。

*5:繰り返しますが、だからといって福一原発事故の被害を軽視するつもりはありません

*6:本稿のテーマとは無関係ですが、1995年阪神淡路大震災は近畿圏に大地震が起こらないと楽観していた人が少なからず存在し、旧建築基準の建物が多数残存していたゆえに莫大な人的被害に至ったと考えています