民主党前原代表の筋違いな質問

昨日行われた民主党前原誠司代表の代表質問についての所感を。まずは「格差」に関する質疑応答から。
「小泉改革が格差社会生んだ」(livedoorニュース)

 前原代表は、自殺者の7年連続で3万人以上での高止まり、生活保護世帯の増加、正社員と非正社員の賃金格差の広がりなどの現状を挙げ、「小泉改革によって、所得格差が拡大し、セーフティネットを破壊した」と糾弾した。

 小泉首相は、所得格差の拡大に対して「高齢者の増加や世帯構造の変化などを考慮すると、統計からは確認できない」と反論。「将来の格差拡大につながる、フリーター、ニート生活保護受給者らの増加、地方格差には、最新の動きに注意が必要」と述べ、「引き続き、地域、国民の潜在力が発揮され、夢と希望が実現できる活力ある社会の実現へ全力を尽くす」とした。年金については、厚生、共済年金の一元化へ向け、4月末めどに基本方針閣議決定したいとの展望を示した。

所得格差の拡大については、解釈によって「ある」とも「ない」とも言える状態。正社員と非正社員の賃金格差については、存在そのものを問題視する考え方(民主党はこれかな)もあれば、正社員になるチャンスがあれば良いとする考え方(小泉首相はこれかな)もあります。万人が納得する正解が無いのが所得分配問題。この問題については、今後とも与野党間の争点にすれば良いと思います。


次に、耐震偽装ライブドア問題、米国産牛肉問題。これらに関する野党の追及には、必然性と説得力が余り感じられません。
堀江氏支援と捜査は「別問題」(livedoorニュース)

 民主党前原誠司代表は、今国会を「安全国会」と位置づけ、住、食、交通などの安全を重点的に論戦を進めると強調。耐震強度偽装事件について、「無原則に『官から民へ』を推し進め、公の責任まで自民党が放棄した結果」などと指摘。ヒューザー小嶋進社長の再喚問と、伊藤公介元国土庁長官安倍晋三官房長官の秘書の証人喚問、参考人招致を求めた。

 小泉純一郎首相は、居住者の安全を最優先し、関係者の責任追及により事件の全容解明を図るとした上で、「建築確認制度を総点検し、見直しが必要なものは制度化する」と述べた。伊藤元長官や小嶋社長の証人喚問に関しては、「国会で討論するもの」と述べるにとどまった。また、安倍長官は、小嶋社長との面識について「まったくない」と否定。秘書についても「国交省への働きかけなど問題ある行為は一切ない」と説明し、参考人招致は必要ない、との見解を示した。

耐震偽装の真相究明は徹底的に行って欲しいところ。ただ、先日の小嶋社長の喚問を見る限り、参考人招致や証人喚問には余り期待できないかな、と思います。

 ライブドア証券取引法違反事件では、前原代表が「小泉改革によって、企業はマネーゲームに奔走し、公正なルールや企業人としてのモラルが失われつつある」と批判。また、先の総選挙で自民党が、同社の堀江貴文社長に対して党公認こそ出さなかったが、「武部氏や竹中氏が選挙区入りし、公認以上の支援をした」と指摘し、「道義的な責任は免れない。首相は謝罪すべきだ」と迫った。

 それに対し、小泉首相は「捜査が行われている最中で、見守りたい。違法性があれば厳正に対処すべきことは当然」と述べたが、「選挙応援とは別の問題だ」とかわした。

堀江氏の立候補の件で、自民党に責任があるとは全く感じられません。違法行為と立候補との因果関係が皆無なのは明らかだからです。「マネーゲームに奔走する風潮がけしからん」と言いたいのでしょうが、少なくとも私はそうは思いません*1。千歩譲ってマネーゲームを「悪」だと仮定しても、やはり選挙への立候補や応援とは別次元だと思いますし、立候補によってマネーゲームに拍車がかかったかどうかは定かではありません。*2

 また、前原代表は、輸入再開からわずか1カ月で再停止になった米国産牛肉問題について、「政府は日米関係を優先し、国民の生命と健康をないがしろにした」と語気を強め、米国から安全の担保がなければ再開すべきでない、と迫った。 小泉首相は「輸入再開には(米国側の)ルールの順守が必要」と述べ、米国に原因究明と再発防止を求めている、とした。

今回の牛肉問題については、ルールを守らなかった(というよりルールを知らなかった)米国側に責任があるでしょう。病原が発見されたわけでもないので、「国民の生命と健康をないがしろにした」という批判はピント外れにしか感じられません。

ところで、昨日の質問に関して、最も民主党寄りの立場で書いているのは毎日新聞でした。
衆院代表質問:攻める前原民主、防戦の小泉首相(毎日新聞)
この記事だけを読むと、いかにも民主党が勢いづいているように感じられるのですが……冒頭だけ引用します。

衆院で23日始まった各党の代表質問は、民主党前原誠司代表がライブドア事件耐震データ偽造問題、米国産牛肉輸入再禁止問題の「3点セット」をテコに、小泉改革の「陰の部分」を追及したのに対し、小泉純一郎首相は原稿に目を落としたまま、従来の主張を棒読みするなど防戦一方だった。

ライブドア耐震偽造、牛肉が「3点セット」だったとは、驚きです。重要な問題であることは確かですが、批判材料としてはいかにも頼りない「3点セット」。既に論じた通り、少なくともライブドアと牛肉問題に関しては、与党や政府を攻撃する客観的必然性が全く感じられないのです。

*1:大手マスメディアなどは、今回の事件を機に、マネーゲーム自体を悪者にしようと躍起になっているようですが。

*2:自民党による堀江氏の支援が「悪」だとするなら、民主党が複数の法律違反者を公認していたのも「悪」でしょう。ただ、別の問題を持ち出して反論するのは趣味に合わないので、この件は注扱いにします