竹森俊平氏のコラムより

昨日10月3日の読売新聞のコラム「地球を読む」は慶大教授の竹森俊平氏の文章。経済学者による小泉経済改革の評価として興味深いものでした。備忘録代わりに要約しておきます。


近い将来、団塊の世代の退職等に伴い、日本の家計貯蓄率が大幅に低下するので、国債の消化に外資が必要になると予想されます。しかし、竹森氏は悲観していません。ここからは少し長めの引用。

ほかの国の例を見ると、昨年GDP比5.6%もの資本輸入(経常収支赤字)を記録した米国の場合、国債の消化を外国人投資家に依存しながらも、経済は好調だ。それができるのは、「ドル」が特別な地位を持ち、国債残高が日本より低いことに加えて、自由で厚みのある金融市場を持つという有利な条件があるからである。


資本輸入国に転落する事態に備えるには、日本も同様に金融市場の厚みを増し、資本取引を自由にする改革を進めなければならず、2006年までに対内直接投資を倍増するという目標を小泉内閣が掲げた意図がそこにあることは「白書」も指摘する。しかし、実は「小泉改革」のほかの面にもその意図は一貫している。


そもそも、小泉改革は名ばかりだという批判はこれまで度々された。事実、道路公団の民営化などは、道路を建設するかどうかという一番重要な判断を民営化企業に与えないために実が少ない。郵政の民営化にしても、完全民営化が達成されるのは2017年と気の長い話で、人材や資金の配分を効率化するという点では即効性に乏しい。


しかし。小泉改革の真の狙いは、国内金融市場の規模を広げ、究極的には外資による国債の安定的な消化を図ることであったとするなら、別の評価もあり得る、マーケットへの宣伝効果さえあれば「改革」は有意義だからだ。


そう考えると、今回の選挙の焦点となった郵政民営化の意義もよくわかる。世界最大の金融機関である「郵貯」の資金運営の透明性が、日本の金融市場そのものの透明性に直結するという認識をマーケットが抱き、しかも郵政事業の売却益が、将来、国が借金を返済するための財源の一部となることを考えるならば、「郵政」は内閣にとりやはり「改革」の目玉であった。
なるほど。自由で厚みのある金融市場を持てれば、たとえ国債の利払いを外資に頼ろうとも心配は要らない、というわけですな。郵政民営化に対する財界や経済学者からの支持の声が多い理由がようやく分かった気がします*1


もちろん、今後の経済状況が竹森氏が言うほどに楽観的に推移するとは限りません。一般論として、ある国で有効だった経済政策が、類似の状況の他国で功を奏しない可能性があるのが経済の難しさ。とは言え、現在の財政事情を放置するわけにいかないのは事実。大改革への一歩を踏み出した小泉首相の経済政策の行き方については、やはり高く評価しておきます。

*1:私自身、単純に「財政事情を改善するには民営化した方がいいだろ」と考えてましたが、もっと深い理由があったとは